四季の短歌 1
短歌の無断転用は、原則禁止とします。
岐れ路友が眠りし報国寺真夏の笑顔いと懐かしき
友が眠っている報国寺に向かう途中には、岐れ路という交差点があります。
真夏の八月にここを通る時はいつも、友の笑顔が思い出されます。
秋の朝ピィ音残し翡翠はパッと消え飛び川面をすべり
散策路河川の翡翠は、アッという間に飛び発ち視界から消えてしまいます。
川面を滑るように。あとは鳴き音だけが残ります。
音がして深閑のなか振り向けば人ひとりなくただ竹の春
鎌倉英勝寺の深閑とした竹林の中でファインダーを覗いていると、
ふと音がして振り向き、まわりを見渡しても、そこは、ひとりだけの竹の中でした。
色合いと緻密なかたちなり難しファインダ越しの花に教わる
雑草の中に綺麗なかたちと鮮やかな色の花が咲いていました。
ファインダー越しにみる花の姿はなんと美しいものだろうか。
初夏の河ブォウヴォウと牛蛙草深き水山河恋しく
初夏の散策路の河沿いを歩くと、どこからともなく牛蛙の声が聞こえます。
子供のころに聞いたような。草・川・山・水・をふと思い出します。
水無月や過の日生享け逝きし弟共に生いたつ家無く望郷
弟は水無月に生まれ、水無月に逝ってしまいました。
子供時代を共に過ごした家も今はもうなく、懐かしい思い出だけが残ります。
下北の駅降り立てば深甚と潮の香りに人眺めたり
故郷の駅。
電車からホームに降り立つと懐かしい潮の香りがして、
思わずまわりの人の顔をながめてしまいました。
七十の拓郎うたい夏がきて若き想いもまたよみがえり
昔好きだったあの拓郎が七十になってライブだそうな。
夏がきて、私の若い想いもよみがえりそうです。
釜臥の山みる丘へ行きゆけば皆ねむり我今日も生きゆく
故郷の山を見渡せる丘の墓参り。
今はもうみんな眠ってしまった家族の分も、元気に生きなくてはと思う。
長谷の夏地蔵ふたりに手を合わせ君は黙して祈りは深く
長谷地蔵のまえで君は静かに手をあわせていました。
この世に生まれえずして逝った二人の子に。深く祈りを・・。
浴衣着て上りしふたりアジサイロード眼下にみゆるうねうつくしき
長谷寺のアジサイロードは賑わい人で一杯です。列の中には浴衣姿の女子が二人。
上り上って紫陽花の隙間からみえる長谷寺の屋根は、とくに美しかった。
文月に花はまた咲き散りゆきぬ来る文月も花はまた咲き
文月に今年もきれいな花が咲きました。
花はすぐに散りますが、来年の文月には、またきれいな花を咲かせます。
鶴翔の想いは遠くに飛び立ちて明治のこころ今は懐かし
原三渓の自邸鶴翔閣。
茅葺屋根のその装いは、明治のころの日本美術院の作家たちが出入りした面影をどこか感じさせるような建物でした。楽室、茶の間、書斎、客間、仏間、倉・・・。
夏が来てまた咲き誇るアガパンサス君嫋やかに歳て変わらじ
初夏に咲き誇るアガパンサス
まるで君の若き姿を感じさせるように嫋やかです。君はいつまでも変わらない。
長谷の寺アジサイ花は騒がしく仏の像に身心静なる
アジサイの花で有名な長谷寺。
アジサイロード脇の観音ミュージアムは、外の賑わいを隔絶して仏像の数々が光の中に佇んでいました。
身心静なり。
初夏のそら文学館のつたえゆく先人の道想いゆかしむ
鎌倉文士にゆかりの深い旧前田侯爵別邸の文学館。
作家の三島由紀夫がこの別邸をモデルに小説「春の雪」を描いたことでも知られています。
坂の上の空気は文学の匂いがするような感覚を漂わせていました。